最高級品は何百万円もします…
材質
将棋文化検定対策第三弾です。
駒の次に馴染み深い道具である「盤」。
今回は盤に関するあれこれをご紹介します。
まずは材質から。
榧(カヤ)
盤で使われる最高の材質は、榧(カヤ)です。
「本榧」と表記されることもありますが、
基本温暖な気候で成長する木のため、生育の北限は関東北部までとなります。
中でも宮崎県日向産のものは最高級とされ、
将棋盤マニア(?)垂涎の的となっております。
榧は、檜や杉に比べ成長に数倍の時間がかかり、
伐採から製品になるまでにも15年ほどと*莫大な時間がかかる
(*十分乾燥させる必要があるため)ことはもちろん、
苗木の小さい間は獣害対策や雑草の下刈りなど非常に手間がかかるため、
植林されることはほとんどありません。
そのため日本の榧は、事実上絶滅状態にあります。
中国産の榧も1990年代後半より輸出が禁止され、
榧の原木が木材市場に入荷することはほとんどなくなり、
「幻の木」と言われるようになっております。
その「幻の木」をふんだんに使った分厚くて脚付きの将棋盤が、
何百万円もすることは致し方ないのでしょうね(汗)
榧材の特徴としては、その材質の程よい硬さもあげられるのですが、
私はなんと言ってもその独特の「香気」を挙げたいです。
…とても甘い香りがするんですよ。
檜とはまた違った香りなので、なんと説明していいか分かりませんが、
榧はこのニオイにより、防虫効果があると言われています。
ちなみに、榧は燃やすと蚊を追い払う効果があったため、
「蚊遣り(かやり)」が語源との説があります。
新カヤ(スプルース)
この「新カヤ」は前回の記事、
「将棋文化検定対策② 駒」で取り上げた「シャム黄楊」みたいに、
「本物素材」の廉価版の位置づけでして、榧の代替品となります。
木材の種類も全く別なので、これもまた榧と名乗っていいかは疑問ですが、
すでに一般化している名称なので変更はされないままでしょうね(苦笑)
私はこの新カヤ製の2寸盤を持っていますが、やっぱり榧と違って香りが全く無く、
色味も少し軽い気がします。
新カヤと本榧は全然違いますので、これまたシャム黄楊の駒と同様に、
購入するときはご注意を。
檜葉(ヒバ)・檜(ヒノキ)・銀杏(イチョウ)・桂(カツラ)
他の木材は上記表題のとおりです。
左にいくほど一般的に高価とされています。
収納に便利な折りたたみ式は、桂(カツラ)製であることが多いですね。
その他
その他としては、塩化ビニールやゴム、布で出来たソフト将棋盤などがあげられます。
これは持ち運びに便利なので、重量がある木製の将棋盤しかなかった頃に比べると、
数多くの将棋盤が必要となる将棋大会での設営が、
このソフト将棋盤のお陰でかなり便利になったそうです。
また私個人の印象としては、夜中に駒を並べても音がしないので、
他の家族に迷惑をかけることなく棋譜並べができることが良いと思いますね。
なお私が一番最初にお世話になった将棋盤は紙製だったりします。
…そう。将棋駒に申し訳程度に付いてくる、あの紙製のやつです(笑)
しばらくこの紙製の将棋盤にお世話になったって方、
他にもいらっしゃるのではないでしょうか?
形状
脚付き将棋盤
プロのタイトル戦などで使われる脚付き将棋盤ですが、
その裏側の中央部分にはへこみがあります。
このへこみの正式な名称は「音受け」と呼ばれ、
文字通り将棋盤に駒を打ち付けた音を増幅させると言われています。
また製造工程で盤にひびやゆがみが発生しないようにしているものでもあり、
盤の内部の水分をここから外に逃がすという、
実用的な効果を狙ったものでもありますね。
*丸八碁盤店より引用
脚付き盤の脚のほとんどはクチナシの実を模した、
八角型の擬宝珠(ぎぼし)型のものとなってます。
これは「口無し」に通じてまして、第三者の口出しを戒める意味合いがあります。
実際のクチナシの実は六角形なんですが、脚はなぜか八角形です。
これは、日本の風習として「八」はめでたいというところからきています。
…昔っから本当に日本人は、末広がりの「八」が大好きですね(笑)
マス目
*とちぎ将棋まつりブログより引用
将棋盤の上面には漆でマス目を示す線が引かれます。
タイトル戦に使用するような高価な盤になると、
「太刀盛り」という、刃をつぶした日本刀に漆をつけて線を引く技法が用いられます。
太刀盛りをすることにより漆が盛り上がり、線の表面がより鋭くなりますので、
見た目にもシャープな印象になりますね。
将棋盤にも碁盤と同様に「点」が設けられることがほとんどで、計4つ点がついてます。
過去に、この将棋盤に点がついてるかついてないかで、
プロ棋士同士で言い争いがあったそうですが、
ここでの将棋検定対策の趣旨に反しますので、
最後におまけとしてその逸話を記載しておきますね(笑)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
おまけ
プロ棋士という人種が、いかに負けず嫌いかというエピソードですね。
登場棋士は…
中村修九段。
郷田真隆九段。
先崎学九段。
そして羽生善治竜王。
郷田九段が新四段としてデビューした頃のお話です。
中村九段の「羽生時代もこれで終わった」発言が、
カッコよくてカッコわるいです(笑)
その年の夏、我々は函館で避暑を楽しんでいた。といえば格好良いが、ナニ、昼はパチンコ、競馬、ひるね、夜は酒である。
たしか湾岸戦争が勃発した年だった。何故覚えているかというと、イラク軍がクウェートに進行した夜、臨時ニュースがじゃんじゃん、流れるなか、テレビには目もくれずに競馬新聞とニラメッコする郷田の姿が印象に残るからである。
将棋盤が頭の中から消えて一週間も過ぎた頃、事件は起きた。
舞台は海の幸をたらふく食べた後に入ったスナック。女の子に囲碁と将棋の違いを説明している時のことだった。酔った(多分)中村さんがいった。
「囲碁の盤の上にはところどころ目印がついているんだ。将棋盤の上にはそれがない」
なかなかに気がつかない、中村さんらしい説である。たしかに碁盤には九つ、漆が盛り上がった点がある。そこを星といえ。これは間違いない。だが将棋盤になかったかなあ。
先崎、郷田はしばらく沈黙した。なにせ一週間以上将棋盤を見ていない。将棋のことなど一瞬も考えていない。自信がもてない。
やがて、おずおずと郷田が切り出した。
「そうでしたっけ、中村さん。将棋盤にも星みたいな飾りが付いていたんじゃあなかったっすか」
中村さんが「あのねえ」といった。「付いてないって」。先輩である。その話はいったん終わった。
しばらくくだらない話をした後、郷田がぶつぶつ呟きだした。「やっぱり付いているっすよ中村さん。そう付いている。四つついている」
「はあー、付いていないって、そんな点なんかあるわけない」
ある、ない、ある、ない。我々はもめた。両者とも一歩も譲らない。
酔っ払いがくだらないことでアツくなるのは世の常である。それに、二人とも頑固なんだ、これが。
「ある、ある、ある。あるといったらある。大丈夫ですか中村さん」
「ない、ないに決まっている。だいたい郷田も何年将棋をやっているんだ、ないものはない」
「中村さんこそ本当にタイトルを取った男ですか、ある、あ、り、ま、す」
「いや、絶対にない」
この絶対という一言が郷田の闘志に火を付けた。郷田軍の進撃がはじまる。
「中村さん、今、絶対といいましたね。ぜえったい、ですね」
「ああ絶対だ」
「絶対ってことは100%ないってことですね、じゃあ僕が百円ここに出します。百円と百万円で賭けましょう」
「あのなあ、お前、そういう極論……」
「極論は中村さんじゃないすか。万が一つも間違いないなら、百円貰い得でしょう」
「……」
「ほら中村さん、百円、あげますよ」
僕は正直いってあるともないとも確信が持てなかった。
横で女の子が呆れだした。
「二人とも、本当に将棋指しなの」
このままでは埒があかないので、誰かに電話して聞いてみようということになった。
当時飛ぶ鳥を落とす勢いの羽生の家にジーコンジーコン。
「ねえねえ先崎だけど」
「なんですか、こんな夜中に」
「いや、実は(中略)で、あるかないか分かる、できれば見てくれない」
羽生も呆れたのだろう。「悪いけどもう寝てるんで、そんなのいちいち見る気しないよ、けど、あるんじゃない」
席に戻って二人に、羽生がたしかあるんじゃないかといっていたと伝えた。その時の中村さんの台詞はカッコ良かった。
「羽生時代もこれで終わった」
その後の羽生の活躍はご存知の通り。あるかないかは皆さんの盤で確かめて頂きたい。そう、市販されている九割の盤の上には、ひっそりと、存在を恥ずかしがるかのように……。
*将棋ペンクラブログより引用。
コメント
うにさんもですが先崎先生文才おありですよねー先崎先生は間違いなく将棋は天才でしたがその才能が十全に発揮できなかった感が残念です(・x・ ).o0○
先崎九段の文章は本当に大好きで、他のプロ棋士とは全然違う語り口なんですよね。
とても人間味あふれるというかなんというか、そこがまた魅力的で…。
でも逆に言えば、「鬼の住処」である棋界では、そうした人間味は不必要な要素なのかもしれません。
なまじ人間らしさを多分にお持ちだったが故に、将棋の才能が完全に開花しなかったとも考えられます。
ホント棋界は恐ろしいところですね…。
追伸 文才があるとのお褒めのお言葉、とても嬉しいです!
…ですが、もちろん先崎九段と並んで称される器ではないので、
これからも研鑽を続けていき、少しは読んでいただけるような物書きになりたいと思います。
ありがとうございました!