棋士の思いが凝縮
なんじゃこりゃ用語第10弾。
今回は「揮毫(きごう)」を取り上げます。
将棋用語に限定されない
揮毫とは、毛筆で何か言葉や文章を書くことでして、「毫(ふで)を揮(ふる)う」ので、この言葉があります。
一般的には、著名人や書家などが、依頼に応じて書いた格言や看板の文字について言うことが多いので、特に将棋用語というわけではありませんね。
…ただこの揮毫という言葉、我々将棋ファンとしてはとても馴染みのある言葉なので、今回のご紹介となります。
主に扇子に揮毫
プロ棋士の持つ道具の一つに、「扇子」があります。
対局中、扇子をあおいで涼を取ることはもちろんですが、自分の手番の時に扇子を「パチパチ」開閉させて、頭の中の「読みのリズム」を取っている棋士も多いですね。
…プロの棋士は、その大事な持ち物である扇子に揮毫することも多く、人気のある棋士が揮毫した扇子は、今も昔も将棋好きにとって、大事なファングッズの一つとなっています。
玲瓏
*日本将棋連盟より引用
棋界のスーパースター、羽生善治竜王が良く揮毫される言葉が『玲瓏』です。
1 玉などが透き通るように美しいさま。また、玉のように輝くさま。
2 玉などの触れ合って美しく鳴るさま。また、音声の澄んで響くさま。
-デジタル大辞泉
もともとは四字熟語の「八面玲瓏」から取られており、「どこから見ても透き通っていて、こころにわだかまりがないさま」という意味があります。
羽生竜王の「棋理を追究する」姿勢が見えるこの言葉、とても素敵ですね。
この『玲瓏』という言葉が揮毫された上記「紺染小振り扇子」は、羽生ファンの多くが愛用しているロングセラーとなっているそうです。
羽生竜王は他にも、「風林火山」や「泰然自若」といった四字熟語を揮毫されることもありまして、色々な言葉を揮毫されることで知られています。
…ちなみに私も羽生竜王の揮毫入り扇子を持っていますが、そこには「少しずつ前へ進む」と揮毫されており、東日本大震災の復興支援の扇子としては、とてもふさわしい内容の言葉となっていましたね。
涓滴
*日本将棋連盟より引用
こちらも棋界の大人気棋士の揮毫です。
「てんてー」という愛称で、将棋ファンに愛され続ける藤井猛九段。
その「藤井てんてー」が好んで揮毫される言葉に『涓滴』という言葉があります。
1 水のしずく。したたり。
2 わずかなこと。少しばかり。
-デジタル大辞泉
そしてこの『涓滴』を使った熟語として有名なものが、『涓滴岩を穿つ』という言葉です。
わずかな水のしずくも、絶えず落ちていれば岩に穴をあける。
努力を続ければ、困難なことでもなしとげられるというたとえ。
-デジタル大辞泉
まさに、絶え間ない四間飛車の研究の末に生まれた棋界の至宝、「藤井システム」の生みの親らしい揮毫ですね。
ブログを続けておられる方々にも、胸に響く言葉ではないしょうか?
なお藤井九段は、他にも『時哉』(ときかな)と揮毫されることもあり、こちらは「まさに今!それを自覚して研鑽せよ」という意味で、今風(?)に言えば林修さんの名台詞、「今でしょ!」ということになりますかね。
私には名前だという発想がなかったので、少し驚きました。
百折不撓
*日本将棋連盟より引用
その解説の名調子っぷりで、「観る将」と呼ばれる方々にも大人気の木村一基九段。
木村九段は、『百折不撓』という言葉を好んで揮毫されますね。
何度失敗しても信念を曲げないこと。
「百折」は何度も折れること。
「不撓」は決して曲がらないこと。
非常に意志が固いことをたとえた言葉で、物事が何度途中で駄目になっても、決して諦めないという意味から。
-四字熟語辞典オンライン
木村九段と言えば、「千駄ヶ谷の受け師」という異名を持ち、最後の一手まで粘り強く指される棋風で有名です。
他の棋士であれば諦めてしまうような局面においても、『百折不撓』の精神で、幾度も逆転劇を演じている棋士でもあります。
まさにそんな木村九段にこそふさわしい言葉ですよね。
私はある将棋祭りで、木村九段が揮毫されているところを見かけたことがあるのですが、ファンお一人お一人に対しとても丁寧に応接し、なおかつ抜群に上手い筆運びで「ビシッ」と揮毫されているのを見て、「木村九段すっげーな!カッコいいな!」と感動したことを覚えてます。
…あれ見たら、みんな絶対ファンになるよ、うん(笑)
???
プロ棋士の揮毫する言葉について、そのエピソードは尽きませんが、強烈なのは鈴木大介九段の揮毫した扇子ですね。
あまりのインパクトが故に、即日完売したというシロモノです。
*日本将棋連盟より引用
( ゚д゚)
……あほ?!
実はこの揮毫、『平安』と書かれておりますが、鈴木九段があまりにも達筆過ぎて「あほ」にしか見えないと噂になった、通称「あほ扇子」と呼ばれるものです。
…これを持って、対局中に思いっきり相手に見せつけるように扇いでみたいものですが、今は買えないので残念です。
一応鈴木九段は、普段は『夢』とか『徳不孤(論語の言葉)』などと揮毫されるみたいですけれども、この「あほ扇子」が有名すぎて、他に書かれている揮毫がほとんど検索に引っかかりませんでしたよ(笑)
謝 (^_^)
*竹俣紅オフィシャルブログより引用
最後は、竹俣紅女流初段のかわいい揮毫で締めくくり(笑)
これは『謝』の字の真ん中が笑顔になっているという、とてもお茶目な揮毫です。
…最近はタレントとしてよくテレビで見かけるようになり、特にクイズ番組では、かなりの好成績を修めていますよね。
竹俣女流初段の、この頭の良さが発揮されたエピソードがありまして、あるイベントで、先輩女流棋士である竹部さゆり女流三段と、同じ色紙に一緒に揮毫することになった時のことです。
最初に竹部女流三段が、こともあろうにも『殺』なんて書いちゃったもんですから、どう考えても殺伐とした揮毫にしかならないはずでした。
しかしながら、そこで機転を利かせた竹俣女流初段(当時なんと15歳!)は、そのとなりに『菌』と書き足して見事『殺菌』となり、うまいこと平穏な色紙に落ち着かせることに成功したんです。
さすがクイズを得意とするだけあって、見事な頭の回転力を見せてくれますね。
私も真相は知りませんが、竹部女流三段はかなりの毒舌キャラであるということはお伝えしておきましょう…。
*引用元
揮毫から入る
このようにプロ棋士の揮毫は多種多様でして、その言葉の奥には、様々なエピソードが付随してきます。
プロ棋士に興味はあるけど誰を応援したいか分からないと思っている方は、先にプロ棋士が書かれた揮毫を調べておき、興味を持った言葉を揮毫しているプロ棋士を好きになるという、一般とは逆の手順でアプローチをかけてみるというのもアリかもしれません。
現に「あほ扇子」の鈴木大介九段と『殺菌』の竹俣紅女流初段。
とても気になってしまったという読者の方は、何人かいらっしゃるんじゃないですか?(笑)
こうした楽しみ方ができるのも将棋の奥の深さだと思えますから、やっぱり将棋はサイコーですよ!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
なんじゃこりゃ用語 ⑩ 揮毫: コメント ここでいいのかな? 私の持っている 棋士直筆 扇子の揮毫は 二上敦也9段の 老知不O楽棋 (Oは文字不明) 意味は 棋を楽しみて老いを知らず だそうです、初めての横浜オフ会で
お逢いした ロビーさんから頂いた物で大切にしています。 今日教えて下さった コメントの書き込み、ここでいいのかな? 宜しくです。
よっちゃん、コメントありがとうございます!
コメントはこちらで大丈夫です(笑)
二上達也九段の揮毫はおそらく「棋楽而不知老(きをたのしみておいをしらず)」ですね。
扇子に揮毫されているときは一般的に右から読みます。
「而」は「ジ」と読みまして、漢文での接続詞に当たります。
接続詞として使われている場合、置字として訓読しないのが通常ですね。
…まあ薀蓄(うんちく)はここまでとしまして、
いやー、とても良い扇子(センス)をお持ちですね。
まるでよっちゃんをそのまま体現したような揮毫です(^ω^)
素直に羨ましい!
うにさんへ:
早々の レスありがとう! いや~凄い 教養高い 蘊蓄ですね~~ そうですか あの字は漢文の
置字ですか、変換できず困りました、うちわの話ですが センスのダジャレも 最高です、笑。
これを 下さった ロビーさんも 私が U549の最高齢と知っての プレゼントだと思い
とても 嬉しく思い大切にしています。又、ブログにお邪魔して 面白い発見を楽しみにしています。
ご訪問、心よりお待ちしております。
コメントありがとうございました(^^)