一番知られている将棋用語
一般社会でも使われる
「将棋 なんじゃこりゃ用語」第三弾です。
今回は「王手」を取り上げます。
……え?
王手なんてフツーじゃんと思われたあなた。
実はこの普通がゆえの「なんじゃこりゃ」があるのですよ。
「王手」という言葉はおそらく一般に浸透している将棋用語でも、
一番有名な言葉でしょうね。
今年のワールドカップでも、
「日本が決勝トーナメント進出へ『王手』」
といった形で、ネット記事などでよく見られると思います。
将棋の場合は王(玉)を直接攻め立てる手のことを言い、
自駒の利きに相手の王が入った状態を指します。
転じて一般では、
成功・成就が目前の状態になることや、
スポーツなどで残り1勝すれば、
自分もしくは自チームが優勝できる状況になった状態を表すのにも使われています。
これほど一般に浸透している将棋用語もないと思いますが、
だからこそこの「王手」が、とても違和感を覚える場面があります。
「王手!」なんて言わないよ
2年前にNHKで放送された連続テレビ小説、
「とと姉ちゃん」を覚えていますでしょうか?
雑誌「暮らしの手帖」を作った方々をモチーフに撮影されたドラマでして、
主人公小橋常子役の高畑充希さんがブレイクしたきっかけにもなった作品です。
その作中で、主人公一家が東京でお世話になる
「森田屋」という仕出し弁当店がありまして、
そこの大将である森田宗吉は無類の将棋好きという設定でした。
それでこのピエール瀧さん扮する宗吉が、
他の人と将棋を指しているシーンが度々出てきたのですが、
そのシーンの度に宗吉は「王手!」
「王手!王手!…王手だからな!」
というように、王手を連呼するのですよ。
…笑っちゃうくらいに(笑)
お分かりでしょうけどこれって将棋ファンからすると、
ものすごーく違和感。
そもそも王手がかかった時「王手」と言わなければならないルールはないですし、
王手がかかったことを相手に悟られたくないという気持ちが強いですよ。
そのまま相手が王手放置すれば、無条件でこちらの勝ちですからね(笑)
王手放置で負けたことがあります。
…ものすごーくくやしかったし、
自分自身に腹がたった瞬間でした(苦笑)
他にもアニメ映画「天空の城ラピュタ」の中で、
ドーラと老技師ハラ・モトロ(じっちゃん)が
チェスをしているシーンがあります。
ここでも、
じっちゃん「カタギに肩入れしてもよっ、尊敬はしてくれないぜ。」
ドーラ 「…なんだって!」
じっちゃん「あ、いやほら、王手だな。」
ドーラ 「ん?!」
…というように、「王手」って実際に言ってましたね。
チェスでも、「チェック(王手)」と
宣言しなければならないというルールはないので、
こちらも先のと同様、一般的な対局ではあまり見られない光景でしょう。
おうて、カッコ悪い。
このあたりに、将棋を全く知らない一般の人と、
そこそこ将棋を知っている人での王手の意味合いの「差」が見え隠れします。
ドラマなどの作品を作っている側からすると、
「対局相手が困っている・負けている」というシーンの分かりやすい演出が、
上記に見られるような「演者に王手を言わせる」ということなのでしょう。
これなら将棋を全く知らない人でも分かるでしょ?
ということなのでしょうね。
描写に追加の説明はいらないし、ラクな表現方法だとも思います。
ひるがえって言えば、
ナレーション「ここで〇〇の玉に必至がかかった。」
とか、
□□「(…これは詰めろ逃れの詰めろなのか!?)」
というような演出だと、
将棋を題材にした作品ならともかく、
一般人は置いてけぼりだし、
表現がグッと難しくなるというわけです。
…将棋ファンとしては嬉しいですけど(笑)
まあそうした演出が無理でも、
せめてプロ棋士に「王手!」なんて言わせるような
とてもカッコ悪い演出は避けてほしいものですよね。
相撲の横綱に「上手投げだ!」と言わせて投げるような演出
だといえば、そのカッコ悪さが伝わるでしょうか?
特にアニメなどで日本の様式美として定着してますよね。
永井豪さんあたりがマジンガーZで、
「プロレス実況を自分でさせる意味合い」
として始めたって説があるのですが、その辺り詳しい方ぜひ教えて下さい(笑)
……そうすると将棋の対局での「王手」も
必殺技あつかいなんだろうか?(笑)
命名!「王手」言い過ぎ問題
このように、
将棋を中心にした作品を除いた一般的な映画・ドラマ・小説・漫画・アニメでは、
現実の対局ではほぼ見られない
「王手」を宣言するという常識がまかり通ってます。
そのため将棋を覚えた人の中には、
上記のシーンなどを観て覚えているがゆえに、
「王手を言われなかった!ルール違反だ!」と言う方もいらっしゃいますね。
そこでその度に、王手を宣言しないからといって
ルール違反でも何でもないですよと説明する羽目になるのですが、
これまたルール違反ではない理由も話さなければならないため、
説明にとても時間がかかることになります。
これらの問題を私は、
「フィクションの将棋対局における『王手』言い過ぎ問題」
と命名します。
異論は認めません(笑)
将棋ファンが国民の大多数となり、上記の問題が解消され、
将棋対局のシーンで「王手」と言われなくなるその日まで、
我々は将棋の普及をしていかなければなりませんね(使命感)
…なんか壮大な話になったところで、話を終えたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
「王手」言い過ぎ問題(・x・ ).o0○
禿同w
相変わらず目の付け所がナイスですね^^
あ王手放置はあっしもありますー早指しの終盤、相手の王手を玉がかわせば勝ちとゆー場面で
痛恨のクリミ~ウチの玉が果敢に特攻_| ̄|○
エエそれ以来早は指してませんwww
またまたコメントありがとうございます!
今回前々から気になってたこと書けたので満足なのですが、まだまだ将棋指しの違和感を伝えきれてない気がして、おそらく書き直すか、補足の投稿をする気がします(^_^;)
ネットで検索かけても、その違和感について言及されれたものがなくて、「私だけなんかな?」と思ってたのですが、ぶりあんさんも同意してくれてありがたかったです!
返信遅れて申し訳ございませんでしたm(_ _)m
「とと姉ちゃん」の時代背景で、道場や大会でもなく家で指している縁台将棋なら、「王手」と言っても別に不思議ではないと思いますが…
たかさん、コメントありがとうございます!
…確かに道場や大会でもない単なる縁台将棋なので、
口やかましく将棋を指していたのは想像できます。
ただやはり、
①どちらかが初心者である対局ではない
②お互い相手に勝ちたいと思っている
という条件下では、
わざわざ「王手」と言って、
相手に王手がかかっていることを教えるような事はしないのが、
将棋指しとして自然かと思います。
宗吉「(王手をする)…こいつでどうでい!」
隈井「うへぇ! こりゃヤラれたな! う〜ん…。」
宗吉「『待った』はダメだぞ。『待った』はよう。」
隈井「…『待った』なんかしねえよ! ちっとばかり考えてるだけじゃねえか!」
宗吉「『参った』の方を言ったほうがいいんじゃないのかい? 」
↑勝手に創作しましたが、どうでしょうか?
私は「王手」と直接言わないこちらのほうが、
縁台将棋らしくて良いかと思います。
ただ尺(時間)を取るので、
将棋の対局シーンがそれほど重要ではなかった「とと姉ちゃん」では、
まず使われないでしょうけど(^_^;)