将棋 なんじゃこりゃ用語⑧ 感想戦

将棋 なんじゃこりゃ用語

対局相手と共に一局を振り返る

 

なんじゃこりゃ用語第8弾。

今回は「感想戦」を取り上げます。

 

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二人の反省会

 

感想戦とは対局が終わった後に、

ここが良かったとか悪かったなどの勝因・敗因等を対局者同士が話し合うことを指し、

将棋という競技の特殊性を表す行動の一つです。

 

プロ棋士は、対局時の棋譜(将棋の進行)が全て頭に入っていますから、

即座にポイントとなった箇所を再現できます。

そこで、「こういう手はありませんでしたか?」とか

「ここでこの手も考えたんですけど…。」などと、

盤上で再現しながら一局を振り返ります。

それを将棋では感想戦と呼んでいます。

 

要するに対局の反省会でして、それを対局者同士が行うというのがポイントです。

NHK杯のTV中継等で、ご覧になった方も多いでしょう。

対局後、みんな集まってブツクサ話し合っているアレです(笑)

 

「ノーサイド」以上の境地

ちょっと考えていただたきたいのですが、

なにかスポーツ等、…例えば野球で試合が終わった後、

「あのタイミングでの代打で、そちらの流れになりましたね。」とか、

「あの時のエラーで助かりました。」とか、

対戦者同士で言い合うことを想像してください。

…すごく違和感がありますよね。

選手同士がお互いを交えて、あ〜でもないこ〜でもないと反省会…。

はっきり言って異様です(笑)

でも将棋では、こうした局後の感想をお互いに話し合う「感想戦」が、

ほぼ毎回行われています。

将棋では、対局後にこうした感想戦を行うことにより、

お互いの技量を高め合い、共に道を究めんとします。

これは「ノーサイド*」の精神で有名なラグビーでさえ見られない、

将棋特有の対戦後の儀式です。

*ラグビーでの試合終了のこと。戦い終えたら両軍のサイドが無くなって同じ仲間だという精神です。最近では「No side」ではなく「Full time」と言うのが一般的らしいですね。

不文律

将棋での感想戦は、ルール上明文化されているわけではないので、

感想戦を拒否して帰っても特にペナルティはありません。

実際、プロの公式戦でも体調不良等を理由に感想戦を拒否したり、

手短に済ませるケースはあります。

 

しかしながら観戦記者がいる対局における感想戦は、

記者に対するサービスという側面もあるので、

感想戦が行われないのは、かなり異例と言えます。

例えば、2017年6月20日の第30期竜王戦6組昇級者決定戦トーナメントで、

高野智史四段に敗れて引退対局となった加藤一二三九段が、

投了直前に「今日は感想戦はなしで」と言って感想戦を行わなかったことがあります。

これは加藤九段の引退を決めた対局であったので、

多くの報道陣が詰めかけていたのですが、

それにも関わらず感想戦をしなかったということで、

大きく報道されました。

加藤九段はこのことについて、早々に家族に報告したかったためとしていますが、

正直こうしたことは、あまり例がありません。

この加藤九段の「感想戦なし」に対しては賛否両論がありましたが、

ツイッター上では理解の声が多数だったようですね。

当日のツイッターのまとめ↓

…加藤九段が感想戦を行わなかったことにより、

ちょっとした騒動になるところを見ましても、

将棋界にとっての感想戦は、一つの文化となっていることが伺い知れます。

ちなみに高野智史四段の師匠は木村一基九段です。
木村九段にとって初めて四段昇段したお弟子さんでもあります。

 

なぜ感想戦をするのか?

将棋会では「当たり前」になっている感想戦ですが、

一体なぜ行う必要があるのでしょうか?

実際負けた方は早くその場を去りたいほど悔しいはずですし、

勝者も、負けた方に付き合ってあげる必要はないと感じても、

不思議ではありませんよね。

 

…ここで一つ紹介したい言葉があります。

羽生さんの有名な言葉で、

「勝ち負けには
もちろんこだわるんですが
大切なのは過程です。

結果だけなら
ジャンケンでいい。」

という言葉です。

 

プロ棋士達は勝負師でもあるので、もちろん勝ち負けにこだわる面もあるのですが、

もうひとつの面としては、

「将棋の真理を追究する研究者」という性質も持ち合わせています。

その研究者同士が研究の末編み出した一手を、

惜しみなく盤上で披露するのが対局なんですね。

ですので、その研究の成果をしっかり共有したいという心理が働くのは

当然のことなんです。

プロ棋士というのは、お互いにライバルという関係でありながら、

将棋という凄まじく奥の深いモノを、一緒に探求していくという仲間でもあるんですね。

だから羽生さんの言葉にあるように、

単に勝ち負けだけの世界だと言うのなら、極論を言えばジャンケンでもいい。

でもそうではないから…過程がとても重要だから、

感想戦をしっかり行って、一局の可能性を探る必要があるんです。

 

対局時間に限りはありますけれど、感想戦には時間制限はありません。

お互い対局中は脳みそをフル回転させてますから、

対局後には疲労困憊であるはずなのに、

決着が着いた後に長い時間を取って感想戦を行うことは、

プロ棋士にとって珍しいことではありません。

感想戦はかくも重要だというのが、どの棋士もわかっているからですね。

 

アマチュアの場合は?

さて、長々とプロの感想戦を語ってまいりましたが、

その感想戦というのは、プロだけの慣習でしょうか?

いいえ、そうではありません。

実は、将棋にすこし慣れた人であれば、大抵の人が行っています。

私も何度か千駄ヶ谷の将棋道場に足を運びましたが、

そこでの子どもたちも、しっかり局後の感想戦を行っています。

さすがに一局を全て見返すというようなことは出来ないようですが、

「あの辺りが悪かったと思います。」などと言い合うのは、

普通に見られました。

これは感想戦を行うことは、

棋力向上に最も適した訓練であるということが浸透しているからですね。

今はネット上の対局でも、チャットウインドウを通じて感想戦が出来ますから、

それを利用してどんどん感想戦をするような方は、

棋力がグングン上がっている印象です。

…え?

私ですか?

感想戦は大好きなんですけど、肝心の棋力が伴わなくて、げふんげふん…(苦笑)

 

…とにかく将棋には、感想戦という文化が根付いております。

この感想戦をどう捉えるかによって、

将棋の棋力や将棋に対する態度が変わってくると思いますので、

まだやったことがないという方であれば、

対局後、ちょっとでもいいですから感想戦を経験してみて下さい。

どんな些細なことでもいいのです。

一局を振り返る言葉を、お相手の方と交わしてみて下さい。

最初はそれで充分です。

きっと、新たな将棋の一面を知ることができると思いますよ。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. ぶりあん より:

    感想戦は549の面子でやりましたねーてか中々知らない方と出来ないですよね^^
    それだけでも549入った価値あると思うです^^